2050食生活未来研究会

この1年で大きく変化した私たちの暮らしに何を思うか?どう動くか?
2021年初のクロストークは、「社会をもっとおもしろく」をテーマに、あらゆる事業をプロデュースする山本あつしさんと語り尽くした全3回シリーズの第1回目です。

コロナで幕を開けた2020年

  • 田中

    あけましておめでとうございます。2021年始まりました。

  • 山本

    あけましておめでとうございます。去年は、本当はオリンピックがあったはずの年でした。

  • 田中

    2019年の年越しでは、来年はどんな輝かしい年になるだろうって思ってたのに。いきなり1月5日、厚生労働省の一発目が入ってきた。中国でなにやら流行り出しているらしい、と。お屠蘇気分が抜けない時に第一報が来てっていう感じなんですよね。

  • 山本

    個人的には、なんと元旦に母親がインフルエンザ陽性、その2、3日後に僕も陽性反応が出て。インフルエンザから始まった2020年。

  • 田中

    1月末までは、大学も普通に試験をやって。

  • 山本

    まだ対岸の火事感があった。ところが、1月下旬に日本人ではじめてのコロナウィルス感染者が出て、そこで他人事じゃないぞという感覚になりました。

  • 田中

    だんだん近くに来たって感じがした。

  • 山本

    アメリカも最初はインフルエンザによる死者が多いということでしたが、いや、もしかするとコロナなんじゃないかとなっていき…。そこから、あっという間に2021年まで来てしまったという感じ。この1年でガラッと世界が変わっちゃいましたね。

対談写真

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オンラインならではの
醍醐味を実感

  • 田中

    私、2020年は未来にワープしたと感じているんです。Zoomも爆発的に拡がったでしょう。以前からZoomがあるのは知っていたけど、私は遠巻きに見ていたんですよ。スマホでテレビ通話していたし、まぁ、そんな感じかなと。

  • 山本

    そうですよね。

  • 田中

    3月上旬、大野尚子さんとのみらいごはんのクロストークでZoomを使ってみたところ、これはいける!と。授業は恐らくオンラインになるだろうと思ったので、すぐ準備に取り掛かりました。オンラインでも対面と変わらない授業をやりたかったから。

  • 山本

    僕は、4月頃、プロダクトデザイナーの秋田道夫さんとオンライン対談をしました。奈良の事務所からZoomを使って東京の秋田さんとつなぎ、さらにその模様をYouTubeで配信するということをやった。それまでもYouTubeでインターネットラジオを1年ぐらいやっていたんですけれど、離れた場所同士での会話をリアルタイムに配信できたことで、さらにもう一歩進んだオンライン・コミュニケーションの可能性を感じました。

  • 田中

    うん、うん。

  • 山本

    一方、大学の授業もオンラインでやることに。特に入学してすぐの1年生はついてこれるのかなと不安に感じつつ、できる限りのことをやろうと。まずは新しい環境の中でどう伝えていくべきかを考えながら、カリキュラムを組み立て直していきました。それと同時に、学生に提供する視覚・聴覚情報の解像度を少しでもあげようと、一眼レフをウェブカメラとして使ったり、単一指向性のマイクを導入したりと、いろいろ試しながら自分なりに工夫を重ねていきました。

対談写真

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  • 田中

    あつし先生の授業は双方向型で工夫してらっしゃいますよね。私の場合、春学期のメイン授業は流通論。履修が100人を超える講義科目です。受講する学生は、私の対面授業を受けたことがある3回生で、授業後のコミュニケーションペーパーに「いつもの授業とあまり変わらない」と書いてあって、ある意味ほっとしました。私っておしゃべりなので、ほとんどラジオDJ状態でやりました。チャットに書き込まれるメッセージをどんどん拾って、私も質問を投げかけて…。その状態を電リク※1みたいだって言ったんですけどね。なんと!学生に電リクって言葉が通じないんですよ!

  • 山本

    それはジェネレーションギャップですねぇ!(笑)

  • 田中

    ね!でも、面白かったですよ。ファストフード店のオペレーション話が出たとき、「アルバイトしてる人いる?いたら実際の現場のことを教えて!」って聞いたら、チャットにどんどんコメントが入ってくるんで、即時に。そのようなコミュニケーションができるので、大人数の授業は対面よりZoomを使ったライブ授業のほうが効果的だと感じました。質問の数は10倍以上。大教室で手を挙げて質問するのは勇気がいるし。授業を聞いて感じたことを「つぶやく」ように書き込んでくれるので。

  • 山本

    僕も今年度はもう一つ別の大学で90人ほどが受講する講義を担当したのですが、学生に興味を持って参加してもらうためにチャットを活用しました。「飽きてきたかな?」と感じたら、クイズを出題したりとか。

  • 田中

    クイズ!!

  • 山本

    演習の授業では、1クラス20人ほどの学生が自分で考えた企画について、画面共有しながらプレゼンテーションしていく例年通りのスタイルを、オンラインでも踏襲しました。やってみると対面よりスムーズな場面もあり、これはいけるなと感じました。発信と対話の境界がいい意味で曖昧で、ここから新しいコミュニケーションの手法が生まれるかも、という手応えも。先ほど先生がおっしゃったように、未来にワープしていったような感覚を受けましたが、そのスイッチはコロナだったわけです。

  • 田中

    そうね。秋学期になる前に、「秋学期どうする?」ってゼミ生たちに投げかけたんです。対面のゼミを選べるようにもしたけど、「Zoomで」という学生が多くて、秋学期も田中ゼミは全部オンライン。滋賀のキャンパスに2時間以上かけて来ると、感染のこともあるのでオンラインがいい、という学生もいます。対面の良さもあると思うんですけど、小人数のゼミもブレイクアウトセッションを使い3~4人のグループにすると、学生間のコミュニケーションも深まるし、ゼミ全体でのディスカッションでの発言も多く、良い方向に進んでいるという感じがしてる。

対談写真

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オンラインが拓いた
新しいコミュニケーション

  • 山本

    オンライン授業ならではの面白さは、それぞれがそれぞれの場所から参加できること。実家から参加している学生は授業の途中に「ピンポーン」と鳴って、「お父さん帰ってきました」とか(笑)後ろのドアが急に開いて、入ってきた弟さんに「いまプレゼンしてるから入ってこんといて!」とか。カメラの前を猫が横切ったかと思うと、別のおうちでは犬が「ワン!」と吠える。普通の教室ではありえない数々のハプニングが起こるけれど、それぞれの先ではそれが日常の風景なわけで。空間を超えてつながる感覚というか。オンライン授業に参加している部屋はプライベートな空間でありながら、Zoomのマス目で切り取られた風景はクラスメイトと共有している、そんな感覚はこれまでになかったことだなと。部屋全体を片付ける必要はないけど、切り取られた内側の風景をいかにデザインするか、そんなことも楽しんでみようと学生に投げかけたり。

  • 田中

    いいですね。

  • 山本

    ただ、Zoomも万能ではありません。カメラを通してみんなが見ていると思うと発言できないとか、オンライン授業独特の空気感に何らかのストレスを感じてしまう人の心のケアも必要になってくる。今年度はじめて、課題提出や質問用にとLINEグループをクラスごとにつくったのですが、そこで悩み相談を受けることもしばしばありました。授業が終わった後も、もっと話したい、聞いて欲しい、何でもいいから残って話せる人は話そう、と。講義後、学生とLINE電話で1時間ぐらい話しこんだことも。

  • 田中

    なるほど、なるほど。

  • 山本

    「せっかく友達ができると思ったのに、大学に行くことさえできない。授業にもついていけない。相談できる人もいない。もうちょっと頑張ってみようと思うけど、今日出た課題も大変でくじけそう」みたいなね。そういう話を聞いたりして、何かいいアドバイスができるわけでもなく、ただただ聞くだけなのですが、それでも少しは気が晴れるようで。これまでにない経験でしたが、それはそれで悪いものではないなと。

対談写真

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時空を自由に飛び越え、
つながる時代へ

  • 田中

    先生は空間を超えるっておっしゃったんですけど。流通論を教えている私は、Zoomなどのオンラインツールは「コミュニケーションの流通」だと思っているんですね。流通とは生産と消費の間の隔たりをつないで価値を高める経済活動。空間の隔たりをつなぐものが運送業で、時間の隔たり、現在使わなくて未来で使いたいもののために存在しているのが倉庫業。空間と時間の隔たりをなくして、どこにいてもつながれるようにしたのがオンラインツールなのかなと。私は、今回、時間も超えることを感じていました。たとえばね、ゼミで授業以外にコミュニケーションを取るために「ゼミカフェ」という自由参加のゆるい時間を設けたら、「アルバイトの休み時間なんですよ、今」と言ってアクセスしてくれた学生がいて、すごくうれしかった。対面の催しだったらあり得ないでしょう!1分あったら切り替えられるって。ある意味革命的ですよ。

  • 山本

    時間と空間の隔たりがなくなって、さらに舞台裏に表舞台が介入してきている、そんな感じもしています。オン・オフを意識的に切り替えるのではなく、ずっとつながっている感覚。例えばリモートワークなんかはまさにそうで、今までは仕事とプライベート、それぞれに合った役割を演じていればよかったのが、その境界が曖昧になっちゃった。もっと露骨に言えば、演じることで隠していたものが隠しきれなくなってきた。そうなると、普段から自分をいかに自然に整えていくかということが大切だと思うんですよね。素が見えちゃっても大丈夫なように。働き方改革とは生き方の改革のことだと思うのですが、いまこそその「生き方」が問われているのではと思ったりします。それぞれが自然に生きていく、というような。

  • 田中

    そうそう。ミックスしていくっていうのかな。マーブル状になっていく。

  • 山本

    じゃあ、その「それぞれが自然に生きていく」とは何なのかと。それを見つけるためには、自分自身との対話が必要で。でも、それには鍛錬がいる。はじめからセンスでできてしまう人もいるけど、慣れていない人がほとんど。だからその技術を学ぶ機会が求められているのかなと思います。

対談写真

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  • 田中

    私も授業で言っています、「常にもう一人の私が自分にツッコミなさい」って。「何となくはアカン。ちゃんと言語化する、文字化するということをやりなさい。そうするとマーケティング力が身に着くよ」と話しています。

  • 山本

    世界レベルでも、社会全体の意識が内面へと向かっている気がするんですよね。ブラック・ライブズ・マターや香港の混乱、ブレグジットはまさに象徴的で。ずっと前からあった問題だけど、いま改めて答えを出そうとする力が働いているように感じる。SDGsの話も数年前からあるわけですが、いま自分自身がどこにいて、これからどういう未来を描いていくのかということを、一人ひとりがこれまで以上に問われるようになった。そういう2020年だったと思いますね。

  • 田中

    未来にワープしているし、要は違う時代に入っちゃった。ワクチンが開発されるなどしてコロナ禍が解消しても、もう2019年には戻れないですよね。

  • 山本

    そうですね。元の生活に戻ろうとするのではなく、変化をいかに楽しむかが問われているように感じます。

  • 田中

    なるほど…想定外の2020年を経て、2021年の幕開け!さてさて今年はどういう年に!?

対談写真

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  • ※1 電リク
    電話リクエストの略称。ラジオ番組やテレビ番組において、リスナーおよび視聴者が放送局に電話をかけて、番組内で流して欲しい音楽などを求めること。昭和から平成初期には多く採用されていたが、メールやSNSで行うことが主流になってきた。

山本 あつし

山本 あつし

  • ならそら代表。大阪芸術大学 デザイン学科講師。奈良市まち・ひと・しごと創生総合戦略懇話会委員。1971年大阪市生まれ。1993年立命館大学、1999年大阪工業大学卒業。システムエンジニア、建築設計・施工の仕事を経て、「デザインの考え方で社会をおもしろくする」をテーマに、商店街や農村の活性化、企業・店舗のブランディング、商品開発から学校づくりまであらゆるプロデュースを行っている。
    ならそらnarasora.amebaownd.com

  • ライター:宮前 晶子
    撮影:TAKUMI JUN Make-up Salon / 田口 剛
    ヘアメイク:TAKUMI JUN Make-up Salon