2050食生活未来研究会

8回目にお迎えするゲストは、スーパーマーケットの評価をライフワークとする萌企画の伯井裕子さん、網島婦貴さん。30年後も自分で調理し、食べたいというお二人の食への展望は?これからの企業のあり方、消費者の姿勢について熱く語り合いました。

スタートは、お受験で出会ったママ友

  • 田中

    そもそも、なぜお二人が出会ったか。そこを、聞かないと進めませんね。

  • 伯井

    始まりは、子どもの中学受験の塾のママ友。お迎えの時間に会うことが多かった。

  • 田中

    最初の印象はどんな感じだったんですか?

  • 伯井

    息子から聞いてた、「変わった子 おるぞー」って。網島の息子も、ウチの子の事を変わった子おるって話していたようで…。どういう親御さん?(笑)って、お互いに。

  • 網島

    で、話してみると、食に対するこだわりという共通点があった。

  • 伯井

    お勉強の話より、「食事のバランスをどうしてる?」「お買い物はどこ行ってるの?」という話題の方が多かった。

  • 網島

    子どもが中学校に入って、「私たちも何か勉強したいね」となったんですよ。

  • 伯井

    スーパーマーケットにクレームじゃなくて、主婦の思いを聞いてもらいたいよね、という思いが二人の間にありましたね。そのためにはどうしたらいいんだろう、ということで辻学園で 勉強することにした。

  • 田中

    当時の辻学園のフードビジネススクールのミールプランナーコースですね。それが、2000年。お二人が1期生で、私は2期生で、3人が出会うことになった!

  • 網島

    専業主婦で、ミールプランナーコースを受講している人っていなかった。周りは、20代の若ーい娘さんばっかり。おばちゃん二人がいっつも最前列で、先生の話を聞いてるっていうんで、有名になった。

  • 田中

    コースで学んだのは食の顧客接点。特に食品スーパーでどう売っていくのか、食の提案をどうしていくのかを勉強しました。講師陣は小売で提案している人たち、メーカーさん、いろんなところで活動している方たちでしたね。マーケティングやマーチャンダイジングを学んで、実際の店舗で検証した。自分たちが作ったPOP(Point of purchase:購買時点の広告)を取りつけて売り上げがどう変わるか、そんなことをやりましたよね。

対談写真

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普通の主婦からセミプロ主婦へ

  • 田中

    2期生が終了した時に勉強会をしようか、という話になって、月に一度、 福岡のスーパーマーケットサニーの元商品部長で、独立後カノンリテールマーケティングというマーケティング会社をされていた片岡正時先生 をお呼びしたんですよね。

  • 伯井

    私たち、「弟子になりたい」って福岡まで直談判に行ったこともあったんです。

  • 田中

    先生がお二人に「評価サイトを作れ」とけしかけていたのを、私、そばで見ていたので、覚えてるんですよ。「スーパーの評価をまず書いたらいい。それも客観的なデータをクレームみたいにどんどん書けばいい」と。「会社にして活動しなさい」とも言われてました。萌企画の今は、片岡先生のご指導があってこそだと思っています。

  • 伯井

    今もお世話になっています。実際、コースを卒業して、月に一回、勉強会をしているけれど、「さぁ、どうしましょう?」となって…。ちょうどインターネットが出始めた頃だったので、サイトを作ることにしました。私、キーボードで文字も打てない状態だったから、一生懸命パソコン教室に行ったんですよ。それで「主婦っとサーベイ」というホームページを自力で作った 。

  • 網島

    「スーパーの評価表を作って、点数が出るようにしたらいい。点数が出ないと読む人はおもしろくない。でも、お店の人が読んで納得するものでないと。」って言われて。計算して、点数が出るように作った。コメントは好き放題、主婦の思っていることを書いて。

  • 田中

    要はお二人がスーパーに行って、見たこと、感じたことを整理して、点数化した。きちんと文字化した、数値化したってことですね。

  • 伯井

    そしたら、半年後に業界団体、日本セルフ・サービス協会(現:全国スーパーマーケット協会)の広報担当、名原孝憲さんがいきなり会いに来てくださったんです!

  • 網島

    そう、大阪まで来てくださったのよ。ネット上のやりとりから始まって。

  • 伯井

    面白いって、すぐ見つけてくださったのよ。2001年の事ですから、SNSもブログもまだ一般的ではない時代。当時はそのように消費者視点でネット発信している人は少なかったんでしょうね。

  • 網島

    それで、いきなり、「業界誌に普通の主婦が思っていること、という連載記事を書いてください」って言われて「機関誌セルフ・サービス」に1年間書かせてもらった。

  • 田中

    普通の主婦からプロシューマー※1 に なっていくわけね。

  • 伯井

    私、この鼎談に備えて当時の「イズミヤ総研」の季刊誌や「セルフサービス」の掲載誌のコピーを国立国会図書館から取り寄せて見直したんです。そしたら、すごく良いこと書いている!今でも通用すること言ってるんですよ! 自分でも面白い!

  • 網島

    伯井は、すごいすごいって言ってるけどね、私はそれを聞いて、いかに業界が変わってないか、に怒れと。今でも通用するってことは、アカンでしょ。

  • 田中

    変わらないですよ。私も社員食堂の改善事例を授業や講演でもう何年も話してる。2002年の話をしているのに、今でも「目から鱗です」って言われる。15年以上変わってないっていうことなんです。

  • 網島

    そう。そういう業界はアカンでしょって思うよね。こんなに世の中が進歩した、変わった、スピーディーって言ってんのに、遅々として進まない。

  • 田中

    っていうのも、ちょっと実感しますね。

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2人で成り立つスーパーマーケット評価

  • 田中

    スーパーマーケットの評価って、日常的に利用する人の視点がないと難しい、と思うんです。実際、どんな感じでスーパーに行くんですか?

  • 伯井

    買い物に行って、今晩のおかずや明日の朝食とお弁当の食材を買わなきゃいけないっていうのをベースにして、評価をする。

  • 田中

    ちゃんと生活して、何が良いか悪いか。主婦力がないとできないですよね。

  • 伯井

    実際に買い物をしてレジを通ります。どれだけレジの人が素早く、丁寧に商品を扱ってくださるかもチェックしてます。

  • 田中

    基本的に買うってことですね。見学にいくよ、じゃなくて買わないと。

  • 伯井

    なぜ、二人でやってるかといったら、一緒に勉強はしたものの、二人の物の見方が全然違うんですよ。評価表を作る時にだいぶ揉めることもある。

  • 網島

    主婦目線になりすぎると、プロから見て物足りないんじゃないの、って。点数に対して文章が辛口すぎるのもアカンし、褒めるところは褒めないと、っていう部分もあるから、そこのせめぎ合い。

  • 伯井

    でも、ずっと二人でやってきてるのは、結局同じ目的のためにひとつにまとめていくっていうことがすごく面白いんですよ。これ、クロストーク3回目の百武先生の合意形成の話に通じるなと思いますね。二人とも考え方が違うけど、合意形成の過程が楽しいから。

  • 網島

    私は、田中さんが、「自分にツッこむ癖を付けなさいって生徒に言ったんですよ」という話を聞いて、「私たち二人の組み合わせってこれだ」って。伯井が、「コレ、いいやん!」って夢中で買い物してるのを「何で?」って私が見て、文章にする。だから、二人で成り立っているのだと思う。

  • 伯井

    私は何でも体験したいタイプなんですけど、網島は追求したいタイプ。商品のパッケージだけじゃなくて、裏も見るんですよ。裏の食品表示をわかりたくて、勉強を、ついには食品表示管理士の上級まで取ったぐらいだから。

  • 網島

    今、裏の表示を見ただけで、味がわかる(笑)。

  • 伯井

    スーパーで売っている商品を評価をする時は、商品の表の顔(パッケージ)だけじゃなくって、裏の顔(原材料・作り方・他)それからCMも評価の中に入れました。

  • 田中

    会社が顧客とどういうふうにコミュニケーションとっていくかというところでCMは一番大きいところ。今の子どもたちはテレビ見なくなってきてるから、ネット広告なども考えないといけないけど、私たち世代だとCMの影響は大きいですもんね。

  • 伯井

    全部並行して、バランス良く見るクセを持たないといけないなというのは、勉強しましたね。今、マーケティングの研究会であるNPO法人MCEI大阪支部に 所属させてもらっているのですが、主婦視点のマーケッターとして、一歩先をみて行く習慣も身に付けさせてもらっています。

  • 田中

    プロダクト、プライス、プレイス、プロモーションの4Pをバランスよく。マーケティングの基本を踏まえて、評価をしたってことですね。

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食の原点は実家だった!!

  • 田中

    お二人の食へのこだわりの原点は?

  • 伯井

    私は自由学園で学んだことかな。「生活即教育」がベースになっている学校でした。毎日の600人分のお昼ご飯を生徒が授業の一環として作る。午前中はクラスの半分が料理をし、午後はクラスの半分が後片付けをする。費用のことも考えつつ、食材の仕入れ、栄養計算も行い、生徒一同が食堂に揃って頂く昼食の場で報告をする。そういう、生活に根ざした食というのが今につながるっているんだろうなって思います。私の娘も仕事持って、子ども2人いて、とっても忙しい。他の家事は二の次、三の次なんですが、食だけはずっと丁寧にやってる。娘に食べさせてきたメニューを孫にも作ってる。ああ、こうやって継承されるんだ、と感じますね。

  • 田中

    そうですね。母から引き継ぐって大きい。“2050みらいごはん”で展開している田中メソッドって、実は実家の食べ方なんですよ。私、全然気づいてなかったんだけれども、実家に帰った時に写真を撮っていたら、気が付いた!結局私の食べ方って、母の食べ方をそのまま継承してるんだって。私は長崎出身なんですけど、長崎は基本的に大皿料理なんですよね、各自に盛り付けるのではなくて。たとえば、長崎のてんぷらって元々から味がついてるんだけど、それが大皿に盛り付けられていて、それを各自が取っていく。京都の懐石みたいに一人ずつのお皿に綺麗に盛ってるタイプではないんですね。ずっとそういう長崎方式で食べてる。

  • 伯井

    田中メソッドやけど…

  • 田中

    実家の青木メソッド、だった。案外楽なんですよね。野菜なども焼くだけ、茹でるだけ。並べれば、食卓も賑わった感じになる。一皿ずつ見たら大したことないんですよ。オクラ茹でてます、みたいにね。

  • 網島

    でもそれでいいんじゃないですか?

  • 田中

    いっぱいあると豪華に見えるし、とりあえず全部食べてみよう!という感じに自然となるんですよね。

  • 網島

    自分のお皿に盛り付けたら、きちんと見栄えよくなるんよね。

  • 田中

    そう、それが田中メソッドなんです。

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もっといいスーパーを求めて、国内&海外へ

  • 田中

    評価サイトに載っているのは何店舗? 買い物に行ったのは、全国1000店舗以上。もっと行ってますよね?

  • 伯井

    国内でも海外でも、旅行はスーパーマーケットに行くためです。

  • 田中

    ウォールマートを見るためにアメリカ行きましたからね。タクシーの運転手さんに「ウォールマート行きたいんです」って言ったら、「何が買いたいのか?もっと近いところにスーパーあるから」って。「いやいや、ウォールマートへ行きたいんです」って、わざわざ高速に乗ってタクシーで買い物にいきました。

  • 網島

    この前はツアーでスペインのバスク州に行ったのですが、やっぱり街の中が楽しかった。田舎の市場なのに鮮魚店の床がドライってことに感動したり、地域に暮らす人が買い物に来ている情景に、何を買ってるのかな、と観察したり。

  • 田中

    市場って素材も面白いけど、お惣菜屋さんもあるじゃない。ああ、こういう食べ方してるんだ、これを量り売りで買って食べてるんだ、と目の当たりにできて、面白いですよね。

  • 網島

    そう、そこ!そこなんですよ。

  • 田中

    全国へ行ってるけど、最初は、どこに行かれました?

  • 伯井

    最初は2002年。高知のサニーマートでした。本当に何もわからない時で、名原さんから、高知にいいスーパーがありますよって教えていただいて。

  • 網島

    車で高知まで行って、帰り道で泊まった新居浜のホテルでひと晩でページ作った、っていうぐらい感動した。もう、すっごくいいいスーパーで!今の自分たちの嬉しい思い、どんなに良かったかっていうことを文章にしないと!って。

  • 伯井

    惣菜がすごく充実してて。

  • 田中

    デパ地下ブームが始まった頃で、スーパーのお惣菜はまだまだでしたよね。スーパーの惣菜と言えば、マカロニサラダやポテトサラダのような、白いものだった。あとはコロッケ。

  • 伯井

    高知のサニーマートは、揚げ物の横に手作りのタルタルソースがあったのよ!

  • 網島

    氷の上に並んでた、一人用の小パックで。フライを家庭でワンランク上にさせてくれる、そういうお店ってすごいなって思ったの。

  • 田中

    それ、未だにないですね。市販品のタルタルソースが横に添えてあるのが普通。

  • 伯井

    「料理アドバイザーコーナー」も良かった。お客が立ち寄って試食し、おしゃべりしている温かい雰囲気だったのよ。商品の紹介だけじゃなく、お客が尋ねやすいコーナーになっていた。

  • 網島

    商品の質の良さとディスプレイ。今はよく見かけるけれど、黒板の手書きPOPにも感心した。サニーマートに最初に出会えたことで、私たちがスーパーマーケットにのめり込むことになったのよ。

  • 田中

    もっといいところあるんじゃないか、日本中行けばあるんじゃないか、ってあるでしょう?

  • 伯井

    そう思うんだけど。ものすごく喜ぶ時もあれば、業界誌を読んで期待し過ぎてガックリの時も。

  • 網島

    私たち、新店オープンはあんまり興味がないんですよ。使いこなされたお店が好き。そっちを評価したい。新店に興味がなくて、行っても意味ないんじゃないの、と思っていたら、「今、その企業がしたいと考え、できることを具現化したのが新店です」と名原さんから教えていただいた。

  • 伯井

    それでも、やっぱり、使いこなした、とことん消費者の空気の溢れてるところが好きなんだけど。最近は、新店も行くようにしてます。 今注目しているのは、リニューアル。無駄にリニューアルできないでしょ?企業力としてね。リニューアルしました、っていう時に見に行って、いつもの買い物客の事をポイント押さえてわかってくれていて、尚且つ新しい提案をしようとしているって、いうのも嬉しい。

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注目しているのはダイニングコンビニという形態

  • 伯井

    この前行った福井のオレボは面白かったですね。

  • 田中

    惣菜店とコンビニがドッキングしていたダイニングコンビニですね。店内で調理した惣菜やお弁当も売っているし、一般的な商品も取り扱っていましたよね。このお店のことは、10年ぐらい前に、テレビで見てたまたま知ったんです。お店の運営方法を見て一目惚れした。実際、すごかったですよね、10年前テレビで見た時より進化した部分も見ることができましたし。一番大きかったのは、小川社長から直接お話を聞けたこと。あれは財産でしたね。

  • 伯井

    生活に即した、身近なコンビニエンスですね。特に食生活に即した。

  • 田中

    食を手にいれる所はこうであって欲しい、特に自分が作れなくなった時に、こういうところが近くに、徒歩圏内にあったらいいな、と思いましたね。

  • 網島

    福井にあったけど、都心に持って行ったら人気爆発するんじゃないかと思う。

  • 田中

    そうなると、やっぱりマネジメント力ですよね。福井なら、目が届く範囲にある。しかも、改善を重ねて、今の状態を作ってきた。でも、あれがフランチャイズシステムで多店舗展開されるとなったら、クオリティが保てないんですよね、きっと。だからやれない。 オレボは、住宅地の近くにも、高速のパーキングエリアにもあるというあの展開も大きいですよね。パーキングエリアって、とりあえずごはん食べようっていう利用があるじゃない。食べるんだったら、まぁ、これかなって気分で選ぶのと、ここを目指して行こうでは違いますから。

  • 伯井

    そうですね。いっぱいスーパー見てきてるけど、本当に進化って、すごく難しいです。

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人を育てて、スーパーが育つ

  • 田中

    スーパーマーケットや小売業の今の一番の課題って、どう思ってますか?

  • 網島

    やっぱり人の教育かな。ひしひし感じてます。2010年に、コープさっぽろでMD大会というマーチャンダイジングの大会があって、私たち、それに参加したんだけど、いろんなメーカーさんや小売り業の人が来てたんですよ。そのなかで、ものすごく熱心に聴いている若いサラリーマンの集団があったの。ビシッとスーツ着て、メモ取って、質問して。それで、この企業どこ?って思ってずっと見てたら、ライフコーポレーションだった。その当時のライフへの私たちの評価は、何でもあるけど何にもない、だった。何でも揃ってるけど、おかずになるもの何にもないやん、っていう店だったの。その頃の業界誌に「今は場所押さえをしている段階だけど、次は店の内容を充実させて行く」というような事が書いてあった。今すごいでしょう。ライフの社員さんだったり、商品だったり。実は私、今ライフのヘビーユーザです。

  • 田中

    アマゾンは結局パートナーとしてライフを選びましたもんね。

  • 網島

    10年かかるのかぁ、って。10年で人が育って、会社の中身が良くなる、ものすごく大変だなぁってリアルに実感しました。

  • 伯井

    でも、スーパーマーケット全体は、揃ってきてる。

  • 田中

    淘汰されたような気がしません?弱いところがなくなるというよりも、食生活を保つために大手が引き受けていく状態に、今あると思うんですよね。クオリティが上がっているというよりも、今まであんまり力がなかったところに大手が手を差し伸べていってクオリティを保っているんでしょうね。それが全体としての底上げになっている部分が大きいと思うんです。

  • 網島

    大きいでしょうね。それとやっぱり、震災などの大きな災害が起こるたびに、生きていくことを支えているのは地元のスーパーだということも取り上げられるじゃないですか、あっちこっちの記事やニュースで。それが励みにもなってるのかなって。

  • 伯井

    本当に地場のスーパーって大事だし、地域のトップ企業のところもある。今でも地方に行くと感じますね。役割はいろいろあると思うから、次の段階のスーパーマーケットには、それを期待したいね。

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食にこだわる人、こだわらない人の二極化が進む分

  • 田中

    これから30年後の食生活はどうなると思います?

  • 網島

    私は、やっぱり自分で買い物に行って、目で見て、触って、選びたいかな。そのためには、2回めのクロストークで管理栄養士のお二人が言ってたみたいに、アンチエイジングじゃなく、プロエイジングだな、と。自分で作って食べるためにも、ちゃんと食べて元気でいることを心がけたい。

  • 伯井

    やっぱり、食材は自分で選びたいですよ。持って帰れないなら、誰かに届けてもらってもいい、ドローンでも何でも。

  • 田中

    選んで、届けてもらう。30年後なら、家の前まで来るモバイル系の仕組みがあるかもしれないし、お家の前に宅配ボックスがあって置いて帰るかもしれない。そこは変わる可能性もあると思う。届けてもらうにしても、やっぱり買いに行きたいなら、立地ですよね。小学校区に1店舗スーパーがあったらいいというんだけれども、それでいけるんだろうか。

  • 伯井

    うーん、1km歩けるかどうか。

  • 田中

    微妙ですよね。マイクロマーケットという無人の自動販売機のようなものを都会の高層マンションの下階などに配置する、というのも、今、考えられているんですよね。週に1回、スーパーに大きなものを買いに行くにしても、牛乳やお豆腐、いわゆる日配品は、そこで買えたらいいのではないか、ということなんですけど。遠くまで行くより身近なところで買えたらいい、というコンビニの発想ですね。

  • 網島

    デイリーな商品はそうなるんじゃないかな。

  • 伯井

    そういうのを利用して、食材を手に入れて、作りたいよね、どうしても。今の調理器具でも、ずいぶん調理の手助けはしてもらえるんですよ。だから、そういうものに頼ってもいいから、死ぬ前日まで料理は作り続けたい。

  • 田中

    自分好みの味付けもあるでしょ。

  • 伯井

    塩、胡椒も使い分けます。そこは外食で与えられないから、家で作りたい。

  • 網島

    30年後に、「あー、今の90代はね」って言われても作りたい(笑)。

  • 田中

    同じ高齢者といえども、戦争を体験した我慢強い年齢の方々とは違って、戦後民主主義のボリュームゾーンが後期高齢者になったら、自己主張をすると言われてる。

  • 伯井

    医療消費者だし、介護消費者でしょうね、きっと。これからは、それぞれの世代の価値観が違ってくるから、食にこだわりを持つのは、嗜好性や趣味と捉えられるかもしれない、と思ったりしています。

  • 田中

    お金を持っていてもどこに使うかは違ってくるでしょうね。お金があるかないか、で分類できない。食にお金をかける人とお金をかけない人が、明らかに存在しています。それって価値観だと思うんですよ、結局。食に関してこだわりがなければ、そこにお金をかけないという選択肢も最近できてますね。社会保障の問題もあって、食にそれだけお金かけられるのか、というのもある。手持ちの額、年間に使える額は、決まってくるから。その中で何に使うか、というところはありますよね。

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プロの生活者として声を上げたい

  • 田中

    30年後、食品を手に入れるためにはどういうところがあったらいいと思います?今の延長上に30年後があるのか?今のままでいいかしら?

  • 網島

    今のままでは、ダメだと思う。

  • 田中

    そこは何が?過去の延長上に私たちが欲しいスーパーはない?

  • 網島

    私はないと思う。全てが下り傾向になるんです。農産物などお店に並ぶ商品自体が下り傾向になるんだから、それを考えたお店づくりをしないと。

  • 田中

    今のスーパーって、いろんな種類の商品が並んでいますよね。消費者に、こんなものがあるんですよ、とワンランク上の商品提案をしている。でも、日本は人口が減ってくるのだから、双方折り合いをつけていかないとダメってことでしょうか?

  • 伯井

    そうそう、それ。

  • 田中

    今までみたいに上へ、上へ、をめざすということではないでしょうね。何でもある、選択肢がいっぱいある、ではなくなりつつある、と思うんですけど。

  • 伯井

    なくなりつつあるんじゃなくて、なくさないと企業としてやっていけなくなると思う。田中さん、“身の丈マーケティング”って言ってるでしょう。私たち、身の丈の生活をしていかなきゃいけないと思う。

  • 田中

    商品がいっぱいあるから、消費者に選んでください、というよりも、セレクトショップのようなお店、たとえば、塩だったらこの3つ、カレーのルウもこれ3つを用意しています。ここから選んでください、と提案するお店でしょうか。キュレーションの力がないとやっていけない時代になっていきますね。今まではとりあえず集めたから選んでね、と消費者に選択肢を渡してたけど。そうじゃなくなるってことかな。そうなってくると、相当また勉強しないといけないですね、提供側が。

  • 伯井

    消費者も贅沢なことを全部知った上で、自分自身で絞っていく。身の丈も考えながら、商品を選ぶ消費者にならなきゃいけないだろう、とちょっと覚悟はしてます。

  • 田中

    流通って元々メーカー側に支配権があったけど、その後、小売業に移り、今はすごく消費者が強くなってきてる。ここから次はどうなるかな、ってとこですよね。消費者だけが強くなっても上手くいかないだろうし、ここから折り合いをつけていくことになるでしょうね。

  • 伯井

    私たちは、ずっとスーパーに対して、プロのお客として、消費者と企業の通訳のつもりでやってきました。スーパーが困っている時に、「そこダメ」「ここはこうして欲しい」と意見するだけではなくて、消費者教育も必要だろうなと感じています。公民館などで、ご要望があるのでセミナーをするのだけど、知らない事をもっと知りたいと消費者も思っています。

  • 田中

    社会情勢を含めて、外部環境も見据えていかないと。自分の家の食生活だけ考えて、「コレして欲しい」「アレして欲しい」だけじゃ、もう成り立っていかないよね。

  • 伯井

    はい。それが、長年やってて、今、思ってることですね。

  • 田中

    与えられているものに対して、「ノー」と言い続けているだけではダメだということ。私たちも歩み寄っていくことが大事ですよね。2050年の食生活のあり方について、消費者自体が自分の立ち位置を主張するためには、萌企画のお二人みたいに、生活者としてもちゃんと見ておく。考えたことを言語化できるのは、欲しいところですね。

対談写真

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  • (萌企画プロフィール)
    「主婦っとサーベイ」https://www.shufutto-survey.com/
    2001年7月 サイト「主婦っとサーベイ」開設
    【プロのお客として消費者と企業の通訳】として活動

  • ※1 プロシューマー…プロデューサー(生産者)とコンシューマー(消費者)を組み合わせた造語。作る側と提供する側、両者に関わる消費者のことを指す。未来学者アルビン・トフラーが著書『第三の波』で予見した新しい概念。

伯井 裕子

伯井 裕子(はくい ゆうこ)

  • 株式会社萌企画代表取締役社長
    立命館大学BKC社系研究機構 客員研究員。
    特定非営利活動法人MCEI大阪運営検討委員
    一般社団法人全国スーパーマーケット協会チェッカー技能検定審査員

網島 婦貴

網島 婦貴(あみじま ふき)

  • 株式会社萌企画取締役
    立命館大学BKC社系研究機構 客員研究員。
    消費生活アドバイザー(経済産業大臣事業認定資格)
    食品表示管理士上級(厚生労働省職業能力評価基準準拠)
    一般社団法人全国スーパーマーケット協会チェッカー技能検定審査員

  • ライター:宮前 晶子
    カメラマン:田口 剛
    ヘアメイク:石田 咲苗