2050食生活未来研究会

2050みらいごはん通信 新春鼎談の写真

Vol.03

新春鼎談
2025年の“食”はどうなる?!

人生100年時代をアクティブに生きるための食生活と、それを支えるしくみを創造し、実践することを掲げた「2050みらいごはん」。そんな、みらいごはんが旗印とした2050年まであと25年。“みらい”まであと四半世紀となった2025年はどんな食の一年になるのでしょうか。本プロジェクトの研究ユニットリーダーであった故・田中浩子の意志を引き継ぐ夫の田中勝久、ユニットメンバーの東山幸恵、小椋真理の3人が2025年の食を考えてみました。

― 3人プロフィール ―

  • 東山 幸恵

    愛知淑徳大学健康医療科学部 教授。同志社女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業。名古屋市公務員栄養士として、名古屋市立大学病院に勤務。専門は小児栄養。

  • 小椋 真理

    京都文教短期大学食物栄養学科 教授。同志社女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業。大学の助手などを経て、給食会社の顧問管理栄養士としてスポーツ栄養プロジェクトを立ち上げ、スポーツ栄養におけるビジネスフィールドを開拓。 2008年北京オリンピック女子バトミントンチームに帯同。

  • 田中 勝久

    京都大学大学院工学研究科 教授。京都大学工学部工業化学科卒業、同大学大学院工学研究科修士課程工業化学専攻修了。工学博士。専門は固体化学、無機化学。妻・田中浩子の遺志を引き継ぎ、2050食生活未来研究会(2050みらいごはん)を再始動。

2025年の「食」は何がキーワードに?

田 中
私は食に関しては専門外ですが、家内がお世話になっていた先生にお伺いしたことで気になったものがあります。それは嚥下(えんげ)食です。2025年になって、ますます高齢化が進むと嚥下食の需要が高まり、それに呼応して嚥下食の改良が進むのではと思っています。すでに栄養学の専門家や、企業が取り組んでいることだと思いますが。
東 山
今、要介護の方はどこで療養されているかというと、大半は自宅にいらっしゃいます。普通に食事が摂れる方ならば問題ないのですが、固いものは食べられないとか、飲み込むとむせてしまうという方もいらっしゃると思います。企業などで作られる嚥下食の利用も選択肢の一つとして大切ですが、誰でもが嚥下食のちょっとした知識を持つことも必要かなと。
田 中
嚥下食というと、流動食のようなものをイメージします。見ただけでは何かわからないような点はなんとかならないかなぁ、と思ったりします。社会全体で高齢者が楽しめる食の開発が進むことを期待したいですね。
東 山
研究がいろいろ進んでいて、見た目はお肉そのものなのに、歯茎で押さえるとほぐれるようなお肉も開発されています。実は酵素処理が施されていて、非常に柔らかく作られているんです。さらにそれらが冷凍食品であることも見逃せません。嚥下食はどんどん進化しています。
田 中
真理さんは2025年の食で気になることはありますか?
小 椋
睡眠と食との関係に私は注目しています。最近、盛んに睡眠のことがメディアなどでも取り上げられていて、光の明るさや強さという眠りの環境がフォーカスされています。環境が良くても、実際に眠れる体内の環境が整っているかどうか、そちらも重要だと思っています。それには、食べることが関連する部分も大きくて、これから注目されそうです。
田 中
眠れる体にするために「食」が必要ということですね。
小 椋
加えて腸内環境もとても大切ですね。少し前から腸と脳の「腸脳相関」について話題になっています。私もそうだったのですが、学生の頃、試合の前にドキドキするとか、大事な試験だと思ったらお腹が痛くなってくるとか。皆さん、何らか経験があると思います。それは腸と脳とがシグナルをやりとりして繋がっているからで、脳にストレスがかかると、脳から腸に指令がいって、腹痛に繋がったりするということがわかってきています。特に腸は免疫細胞がたくさんいますので、健康面においては腸が元気であれば体も元気だし、腸が元気であればメンタルも安定すると言われています。逆にストレスやイライラが腸内環境を悪くすることもあるので、私はそこが睡眠にも関わってくると考えています。今後も腸内環境を整える「食」がクローズアップされるんじゃないかと思っています。
田 中
幸恵さんはいかがですか?
東 山
私は「こうなったらいいなぁ」という思いを込めてお話しさせていただきますね。2025年は大阪で万博もあり、「世界」がキーワードになってくるのではと思います。私たちが世界を知る機会になり、世界の人が日本を知る機会にも。海外の方は「日本の食はおいしい」とSNSでも発信されていますが、それは高級な店ばかりではなくて「コンビニがCOOL!」だと言うんです。卵サンドが海外の方に大人気ですが、卵サンドは日本食の位置付けです。コンビニが日本の食の発信源になっている側面もあります。 食の発信地という意味では、私が在籍する大学の学生たちもお昼はコンビニで買い物をしていて、“特定給食施設”と呼んでいるほど利用率が高いです。また、お年寄りにとってもすぐに買いに行けて、なんでも揃うコンビニは日常の食を支える施設になりつつあります。全ての人においてコンビニが中食の役割を担っていくのではと考えています。
田 中
中食の話が出ましたが、私は食事のためにスーパーで惣菜を買ったりしますし、冷凍食品の買い置きもしています。野菜と肉、魚、炭水化物のバランスを考えて買うようにしていますが、インスタント食品やレトルト食品も食べます。昔に比べて随分と味が良くなってきましたね。
東 山
そうですね。勝久先生はご自分で考えてお食事されていますが、ご高齢のご夫婦では奥様の馬力が落ちてきた時にご主人の食の力が落ちるということが多々あります。やはり食べてこその健康であって、コンビニ然り、遅くまで営業している食堂など中食、外食のバラエティが増えるといいなぁと思います。
小 椋
お惣菜やレトルト、中食にも関連してくるのですが、例えば、食事を簡単に済ませようとすると、おにぎりだけとか、うどんだけとか、単品で終わってしまいがちです。糖質ばかり摂りすぎると一気に血糖値が上がり、その後、急速に低下します。そんな血糖値の乱高下が体に良くないんです。忙しくて簡単に済ませたい時でも、例えばうどんにするなら、卵を落としたり、肉を入れたりと、糖質とタンパク質を組み合わせるといいと思います。勝久先生もスーパーのお惣菜を購入されるときは、たんぱく質と野菜をしっかり摂ってくださいね。
田 中
野菜を摂るメリットがあるにもかかわらず、最近の若い人は野菜を摂らない人が多いと聞いたことがあります。まわりにもそういう人がいます。効率良く野菜を摂る方法ってないのでしょうか。
小 椋
野菜ジュースはいかがですか?生の野菜に比べると栄養成分が全く同じとはいきませんが、摂らないよりはいいと思います。 なぜ、「野菜を摂る方がいいのか」というと、野菜の食物繊維は腸内細菌である乳酸菌など善玉菌の「エサ」になるのでしっかり摂ることで、善玉菌が活発に働いて腸内環境を整えてくれます。また食後血糖の上昇を緩やかにしてくれるので体に良い影響を与えて、睡眠の質の改善にも良い影響を与えてくれます。先ほども腸内環境についてお話ししましたが、腸内環境は食習慣が変わればダイレクトに変化します。例えば数週間海外に行って現地の食習慣に合わせた食事をしていると、帰ってきたら腸内に生息する細菌叢や数が変わるとも言われるほど、食べるものが与える影響が大きいのです。
田 中
海外出張に2週間行って、帰ってきたら、腸内環境が変わっているということですね。食べるものは本当に大切なんですね。
小 椋
日本にいても腸内細菌叢は人によって異なるので、乳酸菌など腸に良いとされる菌は種類もあり、それぞれに特徴もあるので、誰もがヨーグルトを食べれば調子が良くなるわけではなく、納豆や味噌、キムチなどの発酵食品の方がお通じもいいなど、自分に合う菌、食べ物を見つけることが良いですね。見極めるポイントは、便通と便やガスの匂い。やはり腐敗臭がきついと良い腸内環境とはいえません。腸の環境が良くなると肌の調子がよくなったりメンタルも含め体調がよくなってきますので、自分に合うものを探してみてください。
田 中
食べるものの選び方が大切ですね。
東 山
実は、スーパーでお買い物するって、すごくスキルが必要ではないですか?体に良いとわかっている食材でもそれを料理にするまでの技術や知恵、時間がいるんじゃないかなと思います。だからこそ、買って、料理をするサポート体制を作れたらいいなぁと。調理はできるに越したことはないですが、技術や時間を補ってくれる調理家電もたくさん発売されていますし、買い物に行きたくなる、作りたくなる仕掛けがあればと最近考えます。
田 中
私も調理器具はさらに深化すると思います。2025年より、もう少し先の話になりますが、もっと小型の電子レンジや、食材を見極めておいしい条件を自ら見つける調理家電とか。サイエンスは調理に大きく関わっていますし、それが健康に繋がりますよね。栄養成分を数値化する装置や、最初に出た嚥下食のために食べ物の固さを制御する装置だとか、そういったものは今後ますます精度が良くなってくると思います。食の分野をサイエンスがサポートしていく流れは、ますます加速していくのではないでしょうか。

2050に向けて、2025に挑戦したいこと

小 椋
食べることがワクワクするとか、食べて幸せな気持ちになるとか、心も体も健康であるために何かできないと考えています。食や栄養の専門家である私たちは普通だと思っているけれど、世の中の方々からすると普通じゃないことってあると思うんです。専門家同士で話していると、問題を深く掘り下げることはできるのですが、それは必ずしも世の中の方が知りたいことや、ほしい情報とは異なるかもしれません。だからこそ、食分野の方以外と何かコラボすること、繋がることで、よりハッピーな毎日が送れるような発見があるような気がします。やっぱり食べることが楽しみという方を増やしたいです。いろいろ難しいことを考えると食べることは苦痛とか面倒ということになってしまうので、親しみやすく興味を持ってもらえることを提案してきたいと考えています。
東 山
わかりやすく、楽しんでもらうことは大切ですよね。
小 椋
先日、大学の近くにあるラーメン屋さんにゼミ生たちと行ってきたんです。そこは酒粕ラーメンが人気なのですが、「こんな組み合わせをするんだ」と、おもしろくて。食を専門とする私たちではあまり考えないアイデアですよね。まずは、「おいしい」が入口になるような、アミューズメント的な食の楽しみもいいなぁと思いました。
東 山
私は、「発信する」ことに魅力を感じています。先ほど、少しお話ししたことと関連しますが、これまであまり食を担ってこなかった人たちにスポットを当てていきたいと思っています。今まで食事を作ってこなかった方が料理をするようになった姿とかを発信していきたいですね。それは、ハレの食事ではなく、ケの食事。普段の“映えない食事”をもっとフィーチャーしてみたいです。みらいごはんだからできる、いろんな人の「普段の食事」をさまざまな媒体で発信して、「よし、自分もやってみよう」という人が増えたらと思います。食の力がある人は、どこででもやっていけるし、暮らしていけるんじゃないかな。それと、もう一つ。勝久先生からお話が出た嚥下食のことです。子育て中の離乳食の情報はあらゆるメディアで触れていますが、介護食の情報ってあまりないんです。今、研究が進んでいて、調理方法の工夫や使いやすい調理機器なども開発されています。料理番組の途中で「介護食の場合は、こういう切り方で〜」という案内が入るといいですよね。ごく当たり前のこととして、情報が発信されるようになればと思いますし、私たちがその役目を担っていかねば。
田 中
これまでのお話を聞いていて思うことは、食ほど幅の広い分野はないということです。家内が専門としていた食のマーケティングは経営学、食材のことは農学や栄養学、化学や物理学の側面も。食文化に関しては文化人類学や歴史学、調理器具であればエレクトロニクス、食器は材料工学や芸術学、食を楽しむという点では心理学とあらゆる分野を横断しています。それらに対して各分野の専門家がそれぞれの関わり方でアプローチしているということです。また、食は人と人とのコミュニケーションを促し、そのような場の需要を高めるという意味で社会学や建築学、デザイン工学などにも波及します。 人は食がないと生きていけません。みらいごはんでは、いろんな人が集まって、いろんな角度から食を見ていきたいと思っています。加えて、先にも述べた通り、食がもたらすコミュニケーションも大切です。みらいごはんに参画する方々の交わりを取り持つのも「食」そのものだと思います。そんな関わりを広げていきたいですね。