Vol.04
食の楽しみを分かち合う場所づくり
おしゃれなカフェでちょっとランチでも。そんな気持ちで訪ねたのは岐阜県岐阜市にある「カムカムスワロー」です。ここは、医療法人社団登豊会 近石病院が運営するコミュニティスペースで、医療・介護の相談窓口「認定栄養ケア・ステーションちかいし」を中核に、カフェ、シェアキッチン、イベントホールとしても活用されています。同病院の理事であり、歯科医師の近石壮登さんにカムカムスワローの取り組みについてお話をうかがいました。
― プロフィール ―
近石壮登
カムカムスワロー代表、医療法人社団登豊会 近石病院・理事、歯科医師。カムカムスワローがある岐阜市出身。
日本歯科大学卒業後に藤田医科大学に勤務。2021年4月より近石病院で歯科医師を務める。
- 近石病院は、125床を持つ地域密着型の病院で、2018年に歯科・口腔外科を設立。「食べるにとことん向き合う」ことをスローガンに、外来や入院患者への歯科治療や摂食嚥下診療、在宅や施設への訪問診療を行なっています。
- カムカムスワローを立ち上げたのは、訪問診療先でのある患者さんの一言がきっかけでした。その方は脳梗塞の後遺症でペースト食を召し上がっていたのですが、好きな食べ物を聞くと『食べたいのは、◯○寿司のマグロ』とお話ししてくださったんです。その時、私は歯科医師として治療はしているけれど『食の楽しみにまで関われていない』とショックを受けました。嚥下食の人でも気軽に行ける飲食店があればいいなぁと思ったことが始まりです
- 嚥下障害がある方は全国で100万人を超えるとも言われており、嚥下食用に調整された宅配弁当ネット通販、市販のレトルトなどはあるものの、外食のハードルはとても高く、社会とつながる機会を作りたいと、近石さんは考えました。
- 岐阜は名古屋と同じように喫茶店のモーニング文化があります。朝食を摂るだけでなく、朝に身支度をして、お店に歩いて行くことは運動にもなります。この地域の方に根付いた習慣を利用できないかと思ったんです。そのために、まずは地域の食イベントに参加してみたり、通称「ガヤガヤ会議」と呼ばれる病院スタッフや地域の方とのワークショップを開催して、さまざまな意見を集めました。これらを経て、ようやく実現。『食べるを通じて、医療と地域を繋ぎ、地域を健やかにする拠点の創出』をコンセプトにカムカムスワローがオープンしました
- カムカムスワローの名前の由来は、「噛む」と「come(来る)」、スワローは燕(ツバメ)と訳しますが、もう一つ「飲み込む」という意味も。ツバメが軒下に巣を作るように、このスペースには世代も性別もさまざまな地域の方々が集まってきます。
- カフェメニューを目当てに来てくださる女性や子ども連れの方、病院での外来後に立ち寄ってくださる患者さんなど、お客さまは多彩。カフェのメニューは地元のレストランに監修していただいてどれもおいしいんです。もちろん嚥下食が必要な方には調整して提供しています。また、管理栄養士が常駐しているため、栄養相談をしていただくことも可能です。病院での相談はちょっとハードルが高く、気後れしがちですが、カムカムスワローのような気軽に相談できる場も必要だと思います




- 毎週金曜に開かれるシェアキッチンでは、料理教室や飲食店の開業前テストの場として貸し出しをしています。
- 病院は病気になってから行くところですが、カムカムスワローは気軽に立ち寄る場所。病気になる前から地域の方と関わっていくことの重要性を実感しています。相談しやすい環境づくりを通して、医療と地域が持続的な関係を築いていけるようにしたいと思っています
- オープンから2年が経ち、カムカムスワローという場があることによって、地域や全国でさまざまな活動をしている方たちとの新たなつながりも生まれてきています。
- 北海道にあるお肉の卸売を行うGOOD GOOD MEATとカムカムスワロー、近石病院の3者で誰もがおいしく食べられる“やわらかお肉”を開発しました。お肉の形をしているのに、押さえるだけでほぐれていくような、柔らかい食感のお肉です。高齢者の低栄養の原因に、たんぱく質を摂らないことも挙げられます。お肉がお好きな方も多く、これからもお肉を楽しんでもらえたら。カムカムスワローという場ができたことで、それぞれの活動が繋がり、点と点が線になってきました。嚥下食の方にも食の楽しみを感じていただき、『ここに来れば、安心だ』と思っていただける場所づくりが、私たちの願いでもあります
- カムカムスワローの活動への期待度は高く、さまざまな分野とのコラボレーションにも挑戦中。「嚥下障害の人が一番困るのが旅行先での食事」とのことで、ホテルと連携して嚥下調整食を提供するなどの取り組みも始めています。
- 食べることは楽しいことですが、食の楽しみへのアクセスが制限される方々はたくさんいらっしゃいます。カムカムスワローのある地域だけでなく、他の地域でも食の楽しみを広げていきたいですね
近石さんの、きのうの晩ごはん
カルボナーラ
カルボナーラが大好きで自分で上手に作れる数少ない料理です。生クリーム、牛乳、チーズの配合にこだわりあり。
忘れられない食の風景
学生時代から交流がある五島列島(宇久島)で見たシーン。 漁師町で、さまざまな世代の方々がお刺身や鯨のベーコンの炊き込みご飯などの料理を持ち寄り、島の未来について語り合うシーンが思い出されます。食事そのものが印象だったというより、人が集う景色を覚えています。今思えばガヤガヤ会議やカムカムスワローに通じる、ちょっとお節介な場所でもありましたが、現在でも島の方々と交流が続く、大切な場所です。
近石病院:https://touhoukai.or.jp/
カムカムスワロー:https://comeswa.jp/
カムカムスワローinstagram:https://www.instagram.com/come_come_swallow/
カムカムスワロー:https://comeswa.jp/
カムカムスワローinstagram:https://www.instagram.com/come_come_swallow/