Vol.09
地域に人を呼ぶ農業をめざして
SNSや街中のお店で、かわいくておしゃれな農産物や加工品をよく見かけますが、
その中でも幅広い展開で注目を集める奈良県五條市にある「堀内果実園」。
生産者、農業のイメージを大きく変え、その魅力を発信し続ける同園の堀内奈穂子さんにこれまでのこと、これからのことを聞きました。
― プロフィール ―
堀内奈穂子
株式会社堀内果実園取締役。大学卒業後、結婚を機に奈良県西吉野で代々果樹農園を営んでいた堀内農園へ。初心者からスタートし、現在は農園づくりから加工品の開発、カフェ運営など同社の農業経営を牽引する。
- 堀内さんが明治36年創業の堀内農園(現・堀内果実園)にやってきたのは約23年前。「ここに嫁ぐまで、農業とは無縁でした。五條市ってどこ?そんな状態で家業を手伝うことになりました」と、笑う堀内さん。 当時は、柿を中心に梅、カリンなどを栽培。収穫のない夏場の収量を確保するために6代目のご主人と一緒に畑の開墾を行い、ブルーベリー栽培に乗り出しました。

五條市にある堀内果実園。
約12ヘクタールの広大な敷地の中で柿を中心にカリンやブルーベリー、桃、シャインマスカットの生産を行う。
またそれら季節の果物を使用した加工品の製造を行う。
- 「この頃は、それこそ家族総出の農園運営。全員で働きまくる、まさにそんな状況でした。これでは農家の行く末が不安だと夫も感じており、企業と同じ形で雇用ができる農業をしなくちゃいけないーそんな思いがあり、柿の加工品づくりや品目を増やして収穫量を上げることに取り組んできました」
- それまでの農園経営では、成果物の収穫ができるのは1年の約半分。堀内さん曰く、それ以外は「見えない仕事をやっている」のだとか。開墾や土壌の改良など、多岐に渡ります。収入面においては、1年の半分は何もない状態ながら、固定費等の出費はしっかりとかかってくるという現実。柿のジャムやカリンのシロップなど少しずつ加工品のラインナップを強化することで収入の下支えに取り組んできたそう。富有柿のドライフルーツの開発は、保存期間が長く、常温で扱えることから従来の販路以外にアパレルショップなどでの取り扱い先が一気に広がりました。

「絶品!」と評される加工品には理由が。
加工するに適した時期を見極めながら、最も良い状態の中で作業を行うのだとか。
「柿の作業が入っていても、今日は他の果物の方が加工に適しているとなれば、そちらを優先します」。
おいしいものを作っているのに
なんで売れないんだろう
- 転期となったのは、今から17~8年前。デザイン事務所が開いていたマルシェに参加したことから。
- 「私たち、こんなにおいしいものを持ってきているのに何で売れないんやろうって。他に出店されている方の商品が全てかわいくて、うちの商品だけが土産物屋さんみたいなパッケージで…。いいものを出している自信はあるのですが、見た目がいいものじゃないと手に取ってもらえるない現実を突きつけられました。それからは、マルシェの時だけラベルを変えて持って行ったり。“どうやったらこのおいしさが伝わるのか”って、10年くらい悩みました」
- 自分たちで試行錯誤をしながら進めるも限界を感じていた堀内さん。マルシェで受けた刺激をきっかけにデザインの重要性を認識。デザイン会社にパッケージのデザインを依頼しました。「それをやるか、やらないかで、その後が大きく変わった」と言います。

大阪のデザイン事務所「graf(グラフ)」が主催していた
ファンタスティックマーケットへの参加がデザインの重要性に目をむけるきっかけになったそう。
- 「中身は変えずに、デザインを変更すると売れたんです。内容量が減って価格は高くなったのに、人は買うんだという驚きがありました。こんなことにお金がかけられないという意見もあります。デザインをテコ入れしてもそれが売れるかどうかはわからない。ロゴを一つ作れば、箱も全て作り直し、大きなロットでの発注も必要です。“やってやるぞ”という強い思いで先行投資できるかどうか。私たちもデザインを変更するまでの10年間、売り上げも毎年順調に推移していました。そういう意味では、商品開発しかり、やり尽くしてきた感もありました。でも、これ以上の伸び代をどこで求めるかと考えた時には、ブランディングをしないと大きく変化できないだろうという結論に。そんな気持ちがあったからこそ、大きな挑戦をする勇気が湧いてきたのかもしれません」
カフェオープンから次なる展望へ
五條に人を呼ぶ「LAND」プロジェクトって?


奈良県五條市・五万人の森にある「gogoカフェ」は、堀内果実園が運営。
「メロン好きの夢を叶える」といっても過言ではないビジュアル。メロンを半分にカットし、ソフトクリームをたっぷりと入れたメニュー。
- 堀内果実園が次に取り組んだのが、「生の果実を楽しむ」ことをコンセプトにしたカフェの展開です。奈良町の店舗を皮切りに、大阪、東京の商業施設内にオープン。完熟の果実をふんだんに使ったパフェやサンドイッチ、スムージーなどが人気を集めています。果実の消費が減少する中、手ではなく、カトラリーを使って食べる果実を提案。季節の果物を丸ごとあしらったパフェやかき氷、メロン半分にソフトクリームを乗せたスイーツなど、見た目のインパクトも抜群です。

焼きりんごがたっぷり入ったダッチベイビーパンケーキ。果物のおいしさをぎゅっと凝縮。
- 「娘が生まれた時に、女性誌に載る農業がしたいと思ったんです。農業をやっていると堂々と言えるといいなぁと」と、振り返る堀内さん。ブランディング、カフェの出店と女性誌に取り上げられる存在となった堀内果実園では、次のプロジェクトが進行中です。
- 「農業・加工・物販・カフェ機能を集約して、地域の活性化につながる施設『LAND』がこの8月にオープンしました。一次産業と観光をつなぎ、雇用にも貢献できる。もっと一次産業に従事する人を増やしたいし、地元だけでなく他府県から働きにくる人が増えればと思っています。人が来れば、地域が変わると思うんです」
- このプロジェクト、実は10年前から着々と計画を進めていたのだとか。堀内さんは中期計画を策定し、その中で「五條市に人を呼ぶ」ことを目標としていました。

堀内果実園の農園の風景。五條の美しい緑、青空が印象的。
- 「都市部での店舗展開も五條を知ってもらうための策。お店で食べた果実がおいしい!これはどこのもの?そんなふうに多くの方に興味を持ってもらうことが目的でした。10年間のさまざまな取り組みは、観光に結びつくよう考えていたこと。五條に人を呼ぶために考えてきたことでした」
- 「五條に人を呼ぶ」ための拠点として、堀内果実園の集大成的役割を果たす「LAND」。地域の一次産業や特産品、観光資源をつなぐハブとなる施設として期待が高まっています。
何も知らないところから始まった堀内奈穂子さんの農業は、少しずつ、でも確実に
農業の世界を、そして地域のあり方をブラッシュアップしています。
堀内さんの、きのうの晩ごはん
お昼3時ごろにざるそばを食べて、お腹いっぱいになってしまったので、夕飯は食べずです。
娘が「シチューが食べたい」と言うので家族用にはシチューを作りました。
思い出の食シーン
食のイベントで食べた牛肉と生牡蠣の取り合わせが“めっちゃ”おいしくて忘れられないです。あと、メレンゲのお菓子にパッションフルーツをかけたものがとてもおいしくて印象に残っています。